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SiGe(シリコンゲルマニウム)を用いた半導体製造プロセスでは、シリコンのみを用いた場合よりも低ノイズでより高速なトランジスタを実現できる。このことによって、アナログ回路の設計者は、多くのメリットを享受することができる。本稿では、今後さらに重要になるであろうSiGe半導体技術について解説する。 Paul Rako |
CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)製造プロセスの進化は、ICの低コスト化と高速化を実現した。CMOS製造プロセスでは、その進歩の過程で電源電圧が低下し続けており、低消費電力化というメリットも得られる。デジタル回路の設計者であれば、それによる恩恵を直接的に得ることができる。デジタル回路では、1と0を区別できるだけのS/N比(信号対雑音比)が得られれば、電源電圧の低下についてさほど気にしなくてよいためだ。一方、電源電圧の低下により、アナログ回路の設計者は、従来以上に厳しい条件に対応しなければならなくなった。
また、CMOS製造プロセスの微細化が進んだことで発生する問題の1つとして、フォトマスクのコストの高さが挙げられる。この欠点から、最先端の微細CMOSプロセスは、そのコストを回収できるだけの大規模な市場向け製品に適用されることがほとんどであり、ミックスドシグナルICやアナログICに適応されることはまずない。
このような状況下で、アナログ回路の設計者は、より高性能なアナログICを実現できるシリコンゲルマニウム合金(SiGe)を用いた半導体製造プロセスに注目している。バイポーラのSiGeプロセスやBiCMOSのSiGeプロセスは、アナログ回路の設計者に大きなメリットを提供してくれるからである。
アナログ設計者から注目を集めるSiGeプロセスだが、実はデジタル回路の技術者にもメリットを提供してくれる。SiGeを用いた半導体製造技術の1つに、歪(ひずみ)シリコンがある。歪シリコンを利用することにより、高速なpチャンネルMOSFETが実現でき、高速でリーク電流の少ないデジタルICの製造が可能になるのだ。
電子工学の教授らは、今でも学生に、nチャンネルMOSFETの駆動電流は、pチャンネルMOSFETの3倍と教えているかもしれない。だが、業界の専門家の中にはそれに異議を唱える者もいる。米Synopsys社でTCAD担当シニアマーケティングマネジャを務めるRic Borges氏は、「最新の製造プロセスでは、その理論はもはや正しくない。歪シリコンを用いれば、pチャンネルMOSFETの駆動電流のほうがnチャンネルMOSFETのそれよりも大きい場合さえある」と述べている。
歪シリコンの製造プロセスでは、pチャンネルMOSFETのチャンネルにゲルマニウムを注入する(図1)。シリコン原子よりも大きいゲルマニウム原子が存在することにより、シリコン結晶の格子が広がり、歪が発生する。その応力により、キャリアの移動度が増大する。結果として、本来n型トランジスタと比較してキャリアの移動度が低いp型トランジスタの移動度が高くなり、p型とn型のトランジスタを同等のサイズで同等の性能で製造できるようになる。優秀なIC設計者であれば、トランジスタレベルの性能が向上してもあまり影響が現れないデジタル設計においても、高速なpnp型トランジスタを使って、チップ面積や製造コストを低減することができるだろう。
オペアンプやRF回路の設計者がSiGeについて語るとき、それはSiGeバイポーラトランジスタのことを指すケースが多い。SiGeバイポーラの製造プロセスは、CMOSの製造プロセスとは大きく異なる(図2)。ジョージア工科大学のJohn D Cressler教授は、「SiGe HBT(Heterojunction Bipolar Transistor:ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)において、SiGeの厚さはnm単位となる。ゲルマニウムの比率が20%のSiGeが、50nmの厚さでベース領域に埋め込まれるといった具合だ」と説明する。このSiGeにより、「同様にドープしたシリコンのみのバイポーラトランジスタと比べて、ゲインは大きく、周波数は高く、ノイズフロアは低く、フリッカーノイズは小さく、出力抵抗は高くなる」(同氏)という。
このような特性を用いれば、1GHz以上のゲイン帯域幅を持つオペアンプを製造することができる。また、低ノイズであることも重要な利点の1つである。電源電圧はCMOSプロセスよりも高くすることができるので、RFレシーバを製造すれば高いS/N比が得られる。さらに、高い線形性も有しているので、RF包絡線に情報を含む近年の変調方式を使用するICに非常に適している*1)。米Texas Instruments社の高性能アナログ担当フェロー兼主席技術者であるTim Kalthoff氏は、「産業機器市場においても、SiGeバイポーラは、電流増幅率(β)とアーリー電圧(後述)が高いことから、高電圧への対応を実現する手段となる。また、SiGeを用いれば、高ゲイン/高精度で、かつ歪特性に優れた回路を実現できる」と述べている。
SiGeバイポーラトランジスタは、ほとんどすべての性能指標において、シリコンのみのバイポーラトランジスタよりも優れている。もちろん、SiGeにも、シリコンバイポーラトランジスタと同様のトレードオフが存在する。しかし、そもそもベースとなる性能指標が高いので、プロセスを調整することにより、ほぼすべての性能をシリコンバイポーラトランジスタより高めることができる。また、トレンチ分離だけでなく、完全な絶縁層分離も併用すれば、浮遊容量を削減し、動作速度の向上を図ることも可能だ(図3)。
このように、SiGeの製造プロセスは、高速な動作/信号処理を必要とするミックスドシグナルICに最適である。ただし、一般的にSiGeプロセスは、CMOSプロセスと比較すると2世代ほど古いプロセスルールを採用しており、線幅は135nm以上といった具合だ。この線幅によって高電圧動作が可能になるといった利点もあるが、デジタル部分のコストがかなり高くなるという大きな欠点がある。従って、低コストであることが求められるデジタル回路については、できればCMOSを使用し、CMOSで設計できないRF/アナログの部分は別のチップにするという方法をとるべきだろう。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の物理学教授であったHerbert Kroemer氏は、1950年代にHBTを提案した。Kroemer氏とともに2002年にノーベル賞を受賞したロシアの物理学者Zhores I Alferov氏も、独自にヘテロトランジスタを発明している。Kroemer氏は、ガリウムひ素(GaAs)など、周期表におけるⅢ族‐V族の化合物を組み合わせた半導体を中心に研究を行っていた。1987年ごろには、メインフレームコンピュータに使用するプロセスを模索していた米IBM社が、HBTの製造プロセスを検討していた*2)。同社のエンジニアは、SiGeによって速度の向上が得られることを把握していたが、当時のメインフレームコンピュータで最重要の課題だった低消費電力化にはCMOSのほうが有利であった。米National Semiconductor社の集積デバイス部門でプリンシパルエンジニアを務めるJeff Babcock氏によると、「IBM社は、高真空蒸着システムを用いて、SiGeプロセスをアナログ/ミックスドシグナルRF IC向けに再設計した」という(写真1)。それを受け、ジョージア工科大学などの大学が、SiGeプロセスの開発を支援した。ジョージア工科大学のCressler教授は、1つの研究室全体をこのトランジスタ技術の研究に充てた。
その後、すぐにほかの半導体企業らも、アナログ設計におけるSiGeの可能性に気づき始めた。米Analog Devices社は、1993年にIBM社と提携を結び、またTexas Instruments社はオペアンプやRF回路の設計向けにいくつかの類似のプロセスを開発した。National Semiconductor社も、アンプ向けのSiGeバイポーラや、インターフェース製品/ミックスドシグナル製品向けのSiGe BiCMOSなど、複数のSiGeプロセスを採用した。米Maxim Integrated Products社は、同社の製品ラインアップに、SiGeを利用したRF ICを追加した。米Jazz Semiconductor社やNECエレクトロニクス、オーストリアaustriamicrosystems社などの工場もSiGeプロセスに対応している*3)。IBM社もその地位にあぐらをかくことなく、低温において300GHzに近いユニティゲイン周波数を持つSiGeトランジスタを最近発表した。研究者らは、2010年までにはSiGeトランジスタによって、500GHz動作あるいは室温で300GHzのユニティゲイン周波数が実現されるだろうと予測する。
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